誰でも書ける! アニメ批評っぽい文章の書き方

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 いまの時代、「批評」という言葉に良い印象を持っている人は少ないかもしれません。とくにネットの一部では「何も作れないくせに文句ばかりつけやがって……」と親の敵のように憎まれています。実際、批評には間違いなくそういう側面があるので、嫌われるのもいたしかたないのですが、いざ自分で書いてみると意外と楽しいものです。もしかしたら批評嫌いの人のなかにも、「べ、別に批評なんて興味ないんだからねっ!(私もちょっと書いてみたいけど、どうやって書けばいいかわからないし……)」みたいなツンデレ美少女がいるかもしれません。

 そこで本記事では、かれこれ10年くらいブログや同人誌で細々とアニメ批評らしきものを書き続けている批評愛好家のひとりとして、なんとなく批評っぽく見える文章の書き方を紹介したいと思います。ただし、ぼく自身は職業批評家でもなんでもないので、「批評とは何か」「論文や感想文とどこが違うのか」といった本質的な問題には踏み込みません。あくまでぼくから見て「批評っぽい文章」のフォーマットを提供するだけです。それになんの意味があるのかと突っ込まれそうですが、一定の手順さえ踏めば、誰でもすぐに批評(っぽい文章)が書けるということを知ってほしいんです。そして、その楽しさも。

 以下に紹介するフォーマットは、たんにぼくが書きやすく、また初めての人も書きやすいだろうというだけで、遵守すべき規則でも約束事でもありません。全然違う書き方の人を否定したり批判したりする意図もありません。慣れてきたらどんどん崩して、あなただけの最強の批評っぽいスタイルを確立していきましょう。

 

※学校のレポートや論文など、厳密さや正確さが要求される文書でこのフォーマットを採用すると、怒られたり減点されたりする可能性があります。それなりに共通する構造を備えているとは思いますが、趣味の範囲にとどめたほうが無難かもしれません。

 

1. 批評する対象を決めよう

 まず、何を批評したいのか決めましょう。作品でもいいし、作家でもいいし、ジャンルでもかまいません。複数の作品/作家を比較するのもたいへん楽しいですが、最初はひとつに絞ったほうが書きやすいのではないかと思います。

 タイトルや文章の冒頭で何について批評するのかを明示したら、それに対する自分の見解をあらかじめ述べておきます。良かったとか悪かったとかそういう話ですね。理由や根拠については後々説明することになるので、この段階ではまだ必要ありません。結論を最初に述べてしまうのが気後れするなら、それとなく暗示するだけでもいいでしょう。とにかく、このあとどういう展開になるのか、読者がおおまかな予想を立てられるようにしておくことが大切です。

 続けて、批評する対象がどういうものなのか簡単に紹介しましょう。当該の作品や作家、ジャンルについてよく知らない人でも読み進められるように、最低限必要な情報を共有しておきます。

 

2. 仮想敵を設定しよう

 何を批評するのか決めたら、次に「仮想敵」を設定します。なんじゃそりゃと思われるかもしれませんが、これは非常に重要なポイントです。この段階で批評(っぽい文章)のクオリティの大半が決まると言っても過言ではありません。

 仮想敵というのは、要するに「自分とは異なる見解」のことです。有名な批評家や評論家の発言はもちろん、ネットで広まっている通説や、誰かのブログ記事、Twitterで見かけた投稿でもかまいません。あなたが批評しようとする対象について、すでにどういうことが語られているのかを確認し、「一般的にはこう言われている」「◯◯はこう言っている」といったかたちで参照します。論文でいうところの「先行研究」ですね。たとえば『らき☆すた』や『けいおん!』といった日常系アニメ全盛の時代には、「日常系アニメには物語がない(から良くない)」という批判が多く聞かれましたが、これも典型的な仮想敵になりえます。自分とは異なる見解がうまく見つけられない場合でも、「一見するとこういうふうに見える」という言い方で仮想敵を捏ぞ……設定しましょう。

 この手続きを省略すると、なんとなく「批評っぽくない文章」になってしまうので注意が必要です。仮想敵のない文章は、自分の見解をひたすら説明する単調な構造になりがちで、たんなる個人的な感想として受け取られてしまう恐れがあります。「お前がそう思うんならそうなんだろう、お前ん中ではな」というやつですね。別にそれが悪いというわけでは全然ありませんが、あまり批評っぽくは見えないかもしれません。

 逆に言うと、仮想敵さえ設定すれば、なんとなく批評っぽく見えるということでもあります。相手側の問題点を指摘することで、読者を説得し自分の側に誘導するという明確な方向性が生まれるからです。もちろん、他人の意見など必要としない卓越した批評家もいると思いますが、それは例外というか、妖怪みたいなものです。慣れてくるまでは、仮想敵は欠かさず設定するようにしましょう。

 

3. 仮想敵に反論しよう

 仮想敵を設定できたら、それがなぜ間違っているのか、そこにどんな問題があるのかを指摘します。といっても別に全否定する必要はなく、たとえば「不十分である」「もっと重要なポイントがある」といった言い方でもかまいません。

 どういう仮想敵であれ、たいていの見解は多かれ少なかれ対象を単純化したり抽象化したりすることで成立しているので、見落とされがちな細部をつぶさに見ていけば、矛盾しそうな箇所はいくらでも出てきます。矛盾点を拾い集め、相手の解釈の根拠を崩していきましょう。先に挙げた例でいえば、「日常系アニメ」と「物語」の内実をきちんと定義したうえで、「本当に日常系アニメには物語がないのか」「物語がないとなぜ良くないのか」といった問いを立て、個々の作品に即して検証していくわけです。

 反論するにあたっては仮想敵に十分な敬意を払うべきですが、あなたが野心と才気にあふれた若者なら、あえて喧嘩腰で世代間闘争をふっかけるのも悪くない戦略でしょう。仮想敵の権威や名声が高ければ高いほど、クリティカルな反論ができればあなたの評判も高まります。もしかしたら、職業批評家として活躍する道が開けるかもしれません。もちろん、ただの「イキった若者」になってしまう可能性も大いにありますが。

 とはいえ、ネットの通説に反論するのと、現役の批評家や評論家に反論するのとでは、当然難易度が異なります。自分の好きな作品や作家を批評家にボロクソに言われて悔しい思いをした人は少なくないと思いますが、彼らに反論するためには、対象へのより深い洞察に加え、自説をバックアップしてくれるさまざまな知識が必要になります。こればかりは日頃の勉強量と作品経験の多寡に大きく依存します。

 それでも、自分の好きなものを擁護したいという気持ちは、批評(っぽい文章)を書くためのおそらく最初の、そして最強の原動力です。偉そうな批評家にギャフンと言わせる日を夢見て、地道に勉強しましょう。

 

4. 自分の見解を主張しよう

 仮想敵に反論できたら、今度はあなた自身の見解を主張してみましょう。反論する際に挙げた矛盾点をうまく説明できるような、新しい解釈の枠組みを提示するわけです。たいていの仮想敵は常識的な解釈を前提としているので、ぼく個人としては読者を置き去りにするくらいアクロバティックな主張が好みですが、しごく穏当なものでももちろんかまいません。要は、仮想敵よりもいくらか説得的でありさえすればいいのです。たとえば「日常系アニメにはたしかにわかりやすい物語はないかもしれないが、しかしそれこそがリアルであり現代的なのだ」といった具合です。

 一昔前はしばしばポストモダン系の難解な思想哲学が引用され、自説の補強や権威づけに使われましたが、いまはだいぶ減ってきたようです。近年はむしろフェミニズムリベラリズムの観点から、道徳的・政治的正しさに照らして対象を評価するタイプの議論をよく見かけます。このあたりは自分の関心も踏まえて、使えそうな分野の基本文献にあたっておくと、あなたの見解により大きな説得力を与えてくれるかもしれません。

 ただし、仮想敵にうまく反論できていれば、多少根拠が乏しくても、論理性が怪しくても、対象へのほとばしる情念を言語化するだけで謎の説得力が生まれることもあります。当該の作品や作家、ジャンルに対して、あなたが仮想敵よりもはるかに深い洞察と愛着を抱いていることが伝わりさえすれば、たいがいの読者は圧倒されてしまうものだからです。無理して学術的な成果を引用したり参照したりする必要はありません。

 これは個人的な考えですが、最も成功した批評(っぽい文章)というのは、それを書く人の実存と分かちがたく結びついていて、たんに良いとか悪いとかを超えたところにある、救いとか呪いとか祈りとか、そういうよくわからないものに触れているのではないかと思っています。ちょっとロマンチックすぎるかもしれませんが。

 

5. 批評っぽい文章を発表しよう

 批評(っぽい文章)が書けたら、ブログなどに載せてみましょう。嫌がる友人知人に無理やり読ませてもいいかもしれません。そもそも文章にしなくても、YouTubeニコニコ生放送ツイキャスなどで口頭発表するという手もあります。最初は気恥ずかしいかもしれませんが、感想や評価がもらえれば多少の承認欲求も満たされますし、またなんか書いてみようというモチベーションにもなります。今度はあなたの文章を仮想敵にして、別の誰かが批評(っぽい文章)を書いてくれるかもしれません。ワクワクしますね。

 個人的におすすめなのは、批評系同人誌に投稿してみることです。ぼくの好きなアニメ批評の分野だと、たとえば『アニメクリティーク(アニクリ)』が毎号テーマを決めて継続的かつ精力的に活動しています。主宰のNag.さんはたいへん丁寧な赤字を入れてくれるので、あなたの批評(っぽい文章)をブラッシュアップしていくことができますし、似たような関心を持った他の書き手と知り合うこともできます。ぼくは引きこもり気味なのであまり面識はありませんが、みんな理屈っぽくて愉快な人たちです。いずれは一緒に同人誌を作ってみるのもいいかもしれません。

nag-nay.hatenablog.com

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「べ、別に批評なんて興味ないんだからねっ!」と言っていたあなたも、だんだん批評(っぽい文章)が書きたくなってきたはず。もちろん書けたからといって、異性や同性にモテたり収入が増えたりといったメリットはまるで皆無ですが、「フフフ……おれは批評っぽい文章も書けるんだぜ……」みたいな謎のオーラを発することができます。囲碁や将棋をたしなんでいるイメージですね。実際、批評には知的なスポーツっぽい側面も多分にあるので、書いているうちにその楽しさを実感できると思います。

 たまには不用意なことを書いて炎上したりするかもしれませんが、それもまた人生。楽しくも苦しい批評ライフをともに送ってみませんか。