てらまっとのアニメ批評ブログ

アニメ批評っぽい文章とその他雑文

台湾花見に寄せて:『姫様“拷問”の時間です』と消費社会のゆめうつつ

www.youtube.com 今週末、台湾へ行くことになった。目的は「花見」である。台湾には日本統治時代に持ち込まれた吉野桜(ソメイヨシノ)に加え、台湾在来種の山桜や寒桜、さらにそれらを掛け合わせた品種など、さまざまな種類の桜が植えられているらしい。今…

もうひとつの『おにまい』(2):オオサンショウウオと成熟の問題(冒頭)

明治生まれの作家・井伏鱒二の代表作のひとつに「山椒魚」(1929)という短篇がある。国語の教科書にも載っているそうだから、読んだことのある人も多いかもしれない。1匹のオオサンショウウオがある日、巣穴から出ようとしたら出入口に頭がつっかえて、外に…

もうひとつの「おにまい」:『お兄ちゃんはおしまい!』について(1)

ひとりのお兄ちゃんの話から始めたい。 2019年6月1日、東京都練馬区で一件の殺人事件が起こる。農林水産省の元事務次官・熊澤英昭(当時76)が、長男の英一郎(44)を自宅で殺害したのだ。英昭は息子の首と胸を包丁で何度も刺し、やがて動かなくなったことを…

秒速原理主義者による『すずめの戸締まり』感想ペーパー(冒頭)

11月20日(日)に開催される文学フリマ東京35で「秒速原理主義者による『すずめの戸締まり』感想ペーパー」を頒布します。ブースは「U11~12 低志会&週末批評」です。どこまで書けるかわかりませんが、以下、冒頭部分を公開します。 新海誠監督の最新作『す…

杖としての批評(1)最近作ったサイトの名前の話

今年5月に「週末批評」というサイトを立ち上げた。その名のとおり、週末の休みにひとつかふたつ、アニメや映画、漫画などの批評を掲載するサイトだ。「週末批評」という名前は、東浩紀クラスタとしてもう10年ほどの付き合いのあるコロンブスさんこと、倉津拓…

喪失と希望の対位法:『ほしのこえ』とエグザイルの詩学

本稿は2012年に頒布された批評同人誌『セカンドアフター vol.2』に寄稿したものです。 「どれほどの/遠さも苦にせず/呪縛され/汝は飛び来る」──ゲーテ 「私たち、どこだって行けるよ!」──平沢唯 0. 〈いま・ここ〉にある未来 あれからずいぶん月日が流れ…

敗北を抱きしめて:ゼロ年代批評と「青春ヘラ」「負けヒロイン」についての覚え書き

ここ最近、ゼロ年代批評に造詣の深い紅茶泡海苔さん(@fishersonic)の企画で、かつて敗れていったツンデレ系サブヒロインさん(@wak)、大阪大学感傷マゾ研究会さん(@kansyomazo)、早稲田大学負けヒロイン研究会さん(@LoseHeroine_WSD)らとオンラインで…

ポスト日常系アニメのハード・コア:室内空間の解体と『とある科学の超電磁砲S』

本稿は2014年3月に開催されたイベント《日常系アニメのソフト・コア》での発表原稿をまとめた同名の評論集に「あとがき」として収録したものです。 評論集のダウンロードは下記サイトより secondafter.hatenablog.com 日常系アニメに関するイベントをやろう…

わたしのなかのハリガネムシ:ロニ・ホーン展について

先日、箱根のポーラ美術館で開催されている「ロニ・ホーン:水の中にあなたを見るとき、あなたの中に水を感じる?」展を見に行ってきた。 www.polamuseum.or.jp 本展はアメリカの現代美術を代表するアーティスト、ロニ・ホーンの国内初となる美術館個展だ。…

『竜とそばかすの姫』はクソデカ感情百合バトルアニメになるはずだった

2021年7月に公開された細田守監督の最新作『竜とそばかすの姫』を見てきた。わたしの観測範囲ではいつもどおり賛否が割れていて、個人的にはけっこう期待していたのだが、見終わったあとの感想は「うーん……?」という感じだった。 細田監督が何を描きたかっ…

映画の死体に魂を吹き込む:『映画大好きポンポさん』とネクロ゠シネフィリア

2021年6月は、コロナ禍にともなう緊急事態宣言で公開延期されていた話題のアニメ映画が続々と封切られ、アニメファンにとってはちょっとした「まつり」になった。『機動戦士ガンダム 閃光のハサウェイ』『劇場版 少女☆歌劇 レヴュースタァライト』『シドニア…

美少女はじめました(バ美肉についての覚え書き)

最近いろいろ思うところがあり、美少女をはじめることにした。 美少女といっても、現実に肉体改造したりコスプレしたりするわけではなく、バーチャル美少女セルフ受肉、いわゆる「バ美肉」である。これは文字どおり、2Dや3Dの美少女の姿をしたバーチャルな身…

無意識をアニメートする2:『たまこラブストーリー』と非人間への愛

〈以下のテクストは2014年11月に発行されたククラス主宰の批評同人誌『ビンダー vol.1』に寄稿したものです。〉 2014年4月に劇場公開された『たまこラブストーリー』は、一見したところ、恋愛の痛みと喜びを真正面から描いた王道青春映画であるように思える…

去勢されたおっさんの身体:『スーパーカブ』とぼく(ら)の異常な愛情

いわゆる「日常系」がアニメのいちジャンルとして定着して久しい。この間、軽音楽や登山、サバイバルゲーム、釣り、漫画、陶芸、キャンプなど、あらゆる趣味やレジャー活動をテーマにした日常系作品が次々と生み出され、アニメ化もされてきた。当初は「セカ…

意味から効果へ:あるラブひなおじさんの感傷(「完結20周年記念ラブひなおじさん座談会」後記)

先日、zoom+YouTubeで「完結20周年記念ラブひなおじさん座談会」という謎企画を開催したのだが、個人的にたいへん楽しく、また学びも多かったので、自分の感想の一部をまとめておくことにした。3時間ほどのアーカイブ動画は以下から。配信エラーで唐突に終…

誰でも書ける! アニメ批評っぽい文章の書き方

いまの時代、「批評」という言葉に良い印象を持っている人は少ないかもしれません。とくにネットの一部では「何も作れないくせに文句ばかりつけやがって……」と親の敵のように憎まれています。実際、批評には間違いなくそういう側面があるので、嫌われるのも…

戦後日本、アメリカ、自衛隊──『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』について

先日、TVアニメ『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術』(2018)全12話を通して見た。3年前のアニメ作品をいまさら見ようと思ったのは、Twitterに以下のような画像が流れてきたからだ。 この4月からアニメ2期『異世界魔王と召喚少女の奴隷魔術Ω』がスタートする…

杉本克哉個展「YOU ARE GOD」展覧会レビューを寄稿しました

2021年2月24日から3月27日まで、東京・表参道のhpgrp GALLERY TOKYOで美術家・杉本克哉の個展「YOU ARE GOD」が開催されています。 草を植えバスタブの中で祈る 1167x910x30mm Oil on canvas 2020 hpgrpgallery.com 彼はぼくがTwitterを始めた頃に知り合った…

『シン・エヴァンゲリオン劇場版:||』で成仏できない人のために

これは2012年に放送されたアニメ『キルミーベイベー』のファンが、放送終了後にネット掲示板に書き込んだとされる有名なアスキーアート(AA)だ。たんなる自虐的な冗談のようにも見えるが、実のところフィクションというものの本質を突いたきわめて鋭い警句…

未成熟さの倫理──2020年私的ベストアニメ『継つぐもも』について

2020年も膨大な数のアニメが放送されたが、個人的に最も印象に残ったのは、浜田よしかづ原作の『継つぐもも』だった。もちろん、私が通して見ることのできたアニメの数などたかが知れているから、もっと評価されるべき作品を見落としている可能性は大いにあ…

戦闘美少女とその敵:『ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN』『戦翼のシグルドリーヴァ』についての雑感

2020年冬に放送されたアニメ『ストライクウィッチーズ ROAD to BERLIN』(以下『RtB』)と『戦翼のシグルドリーヴァ』(以下『しぐるり』)には、いくつかの共通点がある。どちらも「萌えミリ」と呼ばれる、美少女キャラクターとミリタリー趣味をかけ合わせ…

良質のエンターテインメントか、体制のプロパガンダか ──『羅小黒戦記』についての考察

先日、日本語吹き替え版が公開されて話題になっている映画『羅小黒戦記』(ロシャオヘイセンキ)を観てきた。もともとは2019年に中国で制作されたアニメ映画で、先に公開された日本語字幕版もSNSなどで評判になっていたから、個人的にとても楽しみにしていた…

フィクションvs.フェミニズム:『宇崎ちゃんは遊びたい!』について

2019年10月、日本赤十字社が漫画『宇崎ちゃんは遊びたい!』とコラボレーションした献血PRポスターがSNS上で「炎上」した。胸の大きさを強調した(しばしば「乳袋」と呼ばれる)衣装を身にまとった女性キャラクター(宇崎ちゃん)のイラストが、主にフェミニ…

魚としての私たち──コロナ禍とアニメ、とくに『放課後ていぼう日誌』について

新型コロナウイルスの感染拡大にともない、『プリキュア』や『ONE PIECE』など、さまざまなアニメが新作の放送を延期している。私が今期楽しみにしていた『放課後ていぼう日誌』も、4話以降の放送を休止するという。これは同作を含む「日常系」と呼ばれるジ…

失われた過去の可能性:『映像研には手を出すな!』について

2020年1月から放送されているアニメ『映像研には手を出すな!』の第1話には、宮崎駿監督が手がけた『未来少年コナン』(1978)を思わせるアニメが登場する。主人公の浅草みどりは、幼少期にこの作品を見たことがきっかけで、アニメーション制作の道を志すこ…

京都アニメーション放火事件へのアーティストの応答

東京駅近くのTODA BUILDINGで開催されているTOKYO 2021美術展「un/real engine──慰霊のエンジニアリング」に、アーティスト集団「カオス*ラウンジ」による京都アニメーション放火事件への応答とも言うべき作品が展示されている。 www.tokyo2021.jp 藤城嘘を…

『まちカドまぞく』、あるいは震災後の日常について

「日常系」と呼ばれるアニメのジャンルがある。1999年に連載が開始された『あずまんが大王』を嚆矢とし、『らき☆すた』(2004~)や『けいおん!』(2007~)などに代表されるアニメ作品の総称で、2000年代中盤から後半にかけて隆盛した。その多くは『まんが…

ツインテールの天使——キャラクター・救済・アレゴリー〈3〉

11 丸く切り抜かれたあずにゃんの顔写真が、第一期『けいおん!』の集合写真が象徴する「終わりなき日常」を地として浮かび上がる。私たちはそれが最初から二重化されていたこと、遍在する天使に見守られていたことに気づく。断片化され、重ね合わされたあず…

ツインテールの天使——キャラクター・救済・アレゴリー〈2〉

6 『けいおん!!』は『まんがタイムきらら』に連載中の萌え四コマを原作とするアニメ『けいおん!』の第二期として制作され、前作に続いて「社会現象」と言われるほどの大ヒットを記録したアニメである。第一期から引き継がれた高いクオリティや、モデルと…

ツインテールの天使——キャラクター・救済・アレゴリー〈1〉

以下のテクストは2011年に頒布された同人誌『セカンドアフター』に掲載されたものです。 希望なき人々のためにのみ、希望は私たちに与えられている。——ヴァルター・ベンヤミン 1 2011年3月11日――あの日を境に、オタク文化もまた変わってしまったのだろうか。…